報告書の「第七章 アニメーション制作者の多声性」から
回答の一部を切り取って並べています。
(※印は、私が勝手につけた注と感想です)
ではまず、アニメ制作現場の悲鳴から。
◎私は毎日毎日、何をやっているんだろうか。飲まず、食わず、眠れず、トイレも我慢して座り続け、時には24時間描き続けて、それでも仕事は終わらない。(女:50代:第二原画)
◎「よい作品を作りたい」「この酷い仕上がりを自分の力で底上げしたい」…そういう皆さんの頑張りや良心が、皮肉にも「酷い現場」を支えて成り立たせている。「こんな条件では作りません!」…ストライキのような運動が必要なように思います。(男・40代:演出)
※ちなみに、アメリカのディズニースタジオでは、
1941年にアニメーターたちの待遇改善のストライキがありました。
こうしたひどい現場になるのは「制作本数が多すぎる」ことと
キツキツの(またはいい加減な)「スケジュール」にあるようです。
◎アニメの本数が多すぎる。出版社しか喜ばないようなTVアニメばかりで視聴者が置いてきぼりになっている気がする。…アニメの本数が多くなったからか制作会社も乱立、アニメーターの数が足らないのとアニメーターのクオリティの落ちているのが顕著。(男・30代:制作進行)
※「出版社しか喜ばない」というのは、出版社もスポンサーであり、
アニメがヒットすると原作のマンガやラノベも売れるからでしょうか 。
◎制作人数が足りないところに作品ばかり増やしても質の悪いアニメが増えるだけで、使い捨てアニメが大量生産されてるようにしか思えないです…。(男・50代:演出)
※アニメは10本作っても9本はコケて、そのうち1本でもヒットすれば
9本分の赤字が埋まるギャンブルのようなビジネスだそうで。
だからスポンサーは "数撃ちゃ当たる" と思っているのかも。
制作する現場は酷使されてたまったもんじゃありませんけど。
◎とにかく作品数が多すぎるのと作業期間が短すぎる。作品単価が安すぎる。スケジュールがカツカツ過ぎてスタッフ間に精神的余裕もなくなり、現場はどこも険悪なので本当にスタジオに入りたくない。(女・40代:不明)
※工場のライン作業なんかもそうですね。スピード(効率)をムリに上げると、
現場は険悪になってみんなイライラしてしまう。
◎とにかく賃金が低い。スピードも質も求められ、その上、量までこなさないと生活ができないというのは身体も心も壊れるに決まってます。…企画をとってくる立場の人間が現場のことを見ていなさすぎる。(女・20代:LOラフ原)
※LO=レイアウト。ラフ原=ラフ原画。
◎人間を使い捨てのコマか何かと考えているのでしょうか?…次から次へ作品を取り、人がこわれれば次を入れ、そのくり返しです。何を考えているのでしょうか。(女・30代:プロデューサー)
※考えているのは納期のこと、仕事を回すことだけでしょうか。
手塚治虫でさえ、まわり続ける歯車を止められなかったと書いてます。
アニメ業界の構造そのものを問題視する声もありました。
◎監督以下クリエーターは使い捨てにされている。…日本だけがメーカーが談合のようなビジネスをして自分たちの権利を増やすことしか考えていない下らない仕組み。(男・30代:作画監督)
※この「メーカーが談合のようなビジネスをして」というのは、
資金を出してリスクと利潤を分け合う「制作委員会」のことでしょうか。
◎芸術としてのアニメーションに興味などなく、広告・宣伝ツールとしてアニメを用いて、現場を疲弊させている人たちが多すぎる印象。(女・20代:LOラフ原)
※アトムの時代から、アニメを金儲けの手段と考える人たちと、
芸術性を求めるクリエーターとの間に溝があるような気がします。
ちなみに、この調査はアニメ制作に携わる約1500人に
調査票を配布し、ネットでも協力を呼びかけたそうですが、
回答を寄せたのは382人で、有効回答率はわずか24.2%でした。
◎現段階も3日徹夜、〆切は今日。賃金でいうなら時給50円以下の仕事で死にかけているのでこんな形となってしまい、アンケートに答える余裕すらないこの業界の実態がほんとうに恨めしいです。(女・40代:第二原画)
アニメキャラに夢中になって現実は見たくないとか、
アニメを逃避の手段にしている若者なんかは、
そんなアニメの制作現場にいる人たちのリアルな思いを
ときどき想像してみてはいかがでしょうか。
こんな声もありました。
◎アニメというのは誰かが作っているのではなくて、どこからか湧いて出てくるものであるかのような印象が、日本全体に蔓延しているように感じられ、とてももどかしい。(男・50代:演出)
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