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【note:01】
1本のブログから。 |
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いい小説にめぐり合うコツは、
相性のいい"本のソムリエ"を探すことです。
言いかえれば "センスのいい読み手"を見つけて
あふれる感動を分けてもらう作戦です。
では具体的に1本のブログ、ネットの記事から
小説を読む楽しみを広げていったケースを紹介します。
2018年にYaha-lab.読書会のテキストとして、
恩田陸(おんだ・りく)の『チョコレートコスモス』を選びました。
参考にしたのは、天狼院書店の三宅香帆さんのブログです↓
【読書感想文の書き方つき】京大院生の書店スタッフが
本をあんまり読まない中高生に向けて、
本気出して読書感想文のための20冊を選んでみた。
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http://tenro-in.com/articles/team/22501
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読書好きな中学生に、上の20冊から読んでみたい本を
あらかじめ数冊選んでもらい、サイコロを振って決めました。
私はそれまで恩田陸の作品を読んだことがなく
いちお、読書会の主宰者として下準備をしておこうと思い、
『チョコレートコスモス』を読んだ後、
作者のプロフィールや作品の評判をネットで確認し
恩田さんの他の作品にも手を伸ばしてみました。
恩田さんは、ミステリ、ホラー、ファンタジー、SF、コメディなど
多彩なジャンルの作品を発表している作家だそうです。
また、郷愁を誘う描写に巧みで"ノスタルジアの魔術師"と称されるとか。
(※『チョコレートコスモス』は郷愁にひたる小説ではありません)
2017年、直木賞と本屋大賞をダブル受賞した『蜜蜂と遠雷』が話題となり、
当時のインタビュー記事がネットに残っていたのでそれも読んでみました。
(2020年4月リンク確認)
恩田さんの言葉を拾ってみますと…
私は自分のことをエンタメ作家だと思っていて。昔は一息で読めるもの、あっというまに読めてしまうようなものがおもしろいと思っていたんですけれど、おもしろさにも色んな種類があって。ちんたら読んだりとか、ときどき立ち止まって、続きを間を開けてから読んだりとか、おもしろさにはいろんな種類があるので、これからはいろんな種類のおもしろさを体感できるような小説を書いていきたいと思います。
(ログミー「第156回 芥川賞・直木賞発表&受賞者記者会見 #2/2」2017年)
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https://logmi.jp/business/articles/181378
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「エンタメ作家」とは、いわゆる"純文学作家"ではない
というエクスキューズであり、自負でしょうか。
"文学"とは何か?というややこしい問題もありますが、
エンタメの"おもしろさ"にはいろんな種類があって、
アトラクションやファストフードのような小説もあれば、
ゆっくり時間をかけて味わう小説もあるということですね。
"作者は読者のなれの果て"という言葉がありますが、私はまさにそのタイプ。本を読むことと書くことは、本当は同じことだと思います。読者として面白さを感じたような本を自分でも書いてみたいと思って小説家になりましたが、それほど自分が"書く側にいる"という感覚がない。今でも読者感覚が勝っていて、とにかく本を読んでいないと自分がスカスカになっていく感じがするんです。
( Yahoo!ニュース「私は読者のなれの果て」作家・恩田陸を支える感覚 」2017年)
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https://news.yahoo.co.jp/feature/579
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恩田さんは、作家になった今でも年間300冊ほど読むそうです。
たくさん本を読めば誰でも "作家"になれるわけではありませんが
少なくとも、小説の面白さがわからなければ話になりませんし、
多読乱読のなかから、どんな作品を好むかといった"センス"も重要です。
小説を選ぶ場合に、ある一人の作家を好きになると、
その作家が影響を受けたり、ホメている別の作家の作品もまた
同じように好きになる="当たり"の可能性はぐっと高まります。
興味と余裕があれば、ぜひチェックしたいところです。
さて恩田さんは、どんな作家を好んできたのでしょうか。
WEB本の雑誌に、人気作家がそれぞれ自身の読書遍歴を語る
「作家の読書道」というインタビューコーナーがあります。
恩田陸さんは、2004年10月(第36回)に登場しています。
だいたい、オリジナルストーリーなんてない、って思っているんです。たいていの手法は使いつくされているので、何をやってももう、先行作品のオマージュとなる、という認識でいるので。あと、気持ちいいって感じるストーリーは、古今東西同じであって、見せ方を変えているだけという認識もあります。なので、尊敬する先行作品には毎回触れるようにはしています。
( 「WEB本の雑誌【本のはなし】作家の読書道 第36回:恩田
陸さん」2004年)
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http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi36.html
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上のインタビュー記事から、1964年生まれの恩田さんが
子供時代から作家デビューまでに愛読してきた作家を抜粋してみます。
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WEB本の雑誌「作家の読書道」恩田陸(2004年)より
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子供時代
〜小学生 |
◆ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』
(初めて寝食を忘れて本にのめりこむ体験をした)
◆『くまのプーさん』『秘密の花園』『若草物語』…
◆日本の作家で最初にハマったのは、江戸川乱歩の少年探偵団モノ
◆小学3、4年生で星新一
◆5歳上の兄の影響でアガサ・クリスティやエラリイ・クイーンなど、
ミステリの王道にはまる。
◆初めてのSFは、アイザック・アシモフの『ミクロの決死圏』
(当時テレビで放映された映画の原作)
◆少女漫画は、いがらしゆみこ、里中満智子、一条ゆかり、山岸涼子、
美内すずえなど。
◆小林信彦の『オヨヨ大統領』シリーズ(小林作品はずっと追いかけた)
◆植草甚一の『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』を
小学5年の時に親にねだった(数多くの海外ミステリを覚えた)
◆リチャード・マシスンの『地獄の家』が面白かった
(当時流行った ホラー映画『ヘルハウス』の原作)
◆純文学系は『しろばんば』『次郎物語』『坊ちゃん』など。
◆小学6年生のとき、中井英夫の『虚無への供物』を読んだ。
(文体に不思議な魅力がある。今でも年1回は読みたくなる)
◎一番しっくりきたのは、海外ミステリ。 |
中学時代 |
◎家にあった文学全集など、とにかくあれば読むという感じ
◆石井好子の『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』
(オニオングラタンスープの作り方がすごくおいしそうで、
肌寒い季節になると読みたくなるエッセイ) |
高校時代 |
◎これまでのジャンルに、ノンフィクション作品も加わる
◆立花隆の『宇宙からの帰還』
(人類や地球を外側から見る体験に衝撃を受ける)
◆開高健が好きでよく読んだ。谷崎潤一郎も全部読んだ。
◆『ライ麦畑でつかまえて』や『アルジャーノンに花束を』に泣いた
◆江戸川乱歩賞の小峰元『アルキメデスは手を汚さない』
(芥川龍之介の『薮の中』っぽいところがある学園モノ) |
大学時代 |
◎1日1冊は読んでいた。国文科だったので一応古典も読んだ。
◆大学のゼミでは谷崎潤一郎、卒論は永井荷風を選んだ。
(どっちも家に全集があった。谷崎はトリッキーな小説で大好き。
荷風はエッセイや日記のほうが面白かった)
◆スティーヴン・キングの文庫を追いかけた。
(キングの作品では『ファイアスターター』と『IT』が好き)
◆ロレンス・ダレルの『アレキサンドリアカルテット』が好きだった
(名訳で文章と構成が素晴らしい。なめるように読んだ記憶がある)
◆エド・マクベインの「87分署シリーズ」をくる日もくる日も読んだ。 |
社会人〜
作家
デビュー
まで |
◎社会人になってハードカバーの本が買えるようになって嬉しかった。
◎当時、翻訳作品は出たものすべて読んでいた。
◆ 覚えてるのはルース・レンデルの『ロウフィールド館の惨劇』
(暗い話だが、犯人の動機がすごく話題になった本)
◆小説を書いてみようと思ったきっかけは、26歳のときに読んだ
酒見賢一の『後宮小説』(第1回日本ファンタジーノベル大賞)。
私と一歳しか違わないのに、中島敦みたいな天才的なものを感じた。
当時、"年をとったら作家になりたい"と思っていたが、20代でも
書く人は書くんだと知って、なら自分も書いてみようと思った。 |
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小学生で中井英夫の『虚無への供物』ですか…。すごい。
しかも、一番しっくりきたのは海外ミステリとか。
ちなみに、恩田さんのエッセイ集『小説以外』には、
彼女が愛読してきた作品の話がいっぱい収録されています。 |
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さて。
恩田陸の『チョコレートコスモス』についてですが。
角川文庫の作者あとがきでは、こう述べています。
(初めての週刊誌の連載が決まって…)
そこで浮かんだのはあの国民的少女漫画、
美内すずえ先生の『ガラスの仮面』。
連載第一回からリアルタイムで読んできた私は、
あのワクワク感を再現したいと思ったのだった。
(『チョコレートコスモス』作者あとがき:角川文庫)
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私のレビューは、こんな感じ。
★★★
まさに『ガラスの仮面』の世界!ここぞという芝居の見せ場では、
"鳥肌が立つ"という表現が何度も繰り返され、まさかそんな…と
思いつつも、ぐいぐい引き込まれてしまいました。
エンタメ作品の本領である(ベタな?)展開を、作者の狙いどおり
ワクワクしながら楽しめた。(再読はしないと思うので星は3つ)
この小説は芝居がテーマなので
『ハムレット』(W・シェイクスピア)や
『欲望という名の電車』(テネシー・ウィリアムズ)など
作品の中に有名な戯曲が使われています。
また、私は読んだことありませんが『サキ短編集』に収められた
「開いた窓」という小説からも劇中劇がつくられています。
さきほど紹介した恩田さんのエッセイ集『小説以外』の中に
サキの短編についての文章もありました。一部引用しますと…。
私はイギリス人の書くミステリが大好きだ。洗練された教養の底に隠し持った
自虐的ユーモア。取り澄ました表情の裏の皮肉かつ辛辣な視線。サキの小説には、
そのイギリス人作家の美点(?)が凝縮されている。彼は生涯百三十あまりの短編を
書いているが、どれもが私には堪えられない「イギリス人の」話で、あまりにも
密度が濃いので一日に幾つも続けて読めない。強心剤のごとく、一度に一服ずつ
するのが正しい読み方だろう。
(短編を読む・「開いた窓」『小説以外』恩田陸)
こうした“センスのいい読み手“がホメているのを読むと、
サキの短編もいつか読んでみたいなぁ…と思うわけですね。
(あれから2年…いまだに手を出していませんけど)
こうした過去の名作から引用されたセリフや演出が、
『チョコレートコスモス』の舞台を彩っているのですが、
この小説の世界観、読んでいるときのワクワク感は、
やはり、漫画『ガラスの仮面』を彷彿とさせます。
恩田さんがオマージュを捧げたことがよくわかります。
『ガラスの仮面』を知らない方は、ネットで検索すれば
この国民的少女マンガが、いかに凄い作品であるかを
熱く語っている記事が山ほど見つかると思います。
◆『ガラスの仮面』美内すずえ(白泉社文庫)
平凡な少女だった主人公・北島マヤが、かつての大女優・月影千草に見いだされ、
ライバルの天才少女・姫川亜弓と競い合い、幻の作品「紅天女」を演じるために
女優として成長していく姿を描く。
またまた『小説以外』 から、恩田さんの言葉をひろってみます。
『ガラスの仮面』 を読むと、物語というのは人間の成長を描くのが基本だと思う。
そして、人間の成長はいつだって私たちを感動させるものなのだと
改めて認識させられるのだ。
(「ヒロインの成長描く大長編」『小説以外』 恩田陸)
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ガラかめといえば、「おそろしい子!」
北島マヤの天才的な演技力を評する有名なセリフです。
マンガの中では、月影千草のこんなセリフでした。
あの子「椿姫」の舞台をただ一度みただけなのよ
それなのに3時間半もの舞台のセリフを
一言一句みごとにまちがえずに
俳優達のこまかな演技のポーズまで
丸暗記してしまっているのよ
オーホホホホホ おそろしい子! |
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一方『チョコレートコスモス』では、ヒロインの佐々木飛鳥が
高校生のときに初めて『ハムレット』の芝居を見て感動し、
夜の空手道場でオフィーリア役を真似するシーンがありました。
飛鳥は、東響子そっくりだった。
身振りも手振りも、表情も。そして、
彼女のオフィーリアの台詞を全て覚えていた。
その記念すべき晩、飛鳥は、東響子の台詞を全て、
とうとう最後まで暗唱してしまった。
(『チョコレートコスモス』 恩田陸)
私も両作品へのオマージュの気持ちを込めて、
小説『チョコレートコスモス』 のなかのセリフを
マンガ『ガラスの仮面』のコマに当てはめてみました。
選んだのは次のようなシーンです。
その視線が自分を捕えていることに気付いた瞬間、
飛鳥は覚醒した。落雷にでも遭ったみたいだ。
なんという強い視線。
「――あなたは、誰?」
響子は無意識のうちにそう尋ねていた。
目の前の娘に畏怖を覚えた。
(『チョコレートコスモス』
恩田陸)
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さて、最後は天狼院書店の三宅さんが選んだ
恩田陸作品ランキングのベスト10を紹介しておきます。 |
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第1位 |
『光の帝国―常野物語』
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集英社文庫
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第2位 |
『図書室の海』
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新潮社文庫
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第3位 |
『チョコレートコスモス』
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角川文庫
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第4位 |
『木曜組曲』
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徳間文庫
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第5位 |
『ライオンハート』
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新潮文庫
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第6位 |
『蜜蜂と遠雷』
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幻冬舎
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第7位 |
『小説以外』
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新潮文庫
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第8位 |
『六番目の小夜子』
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新潮文庫
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第9位 |
『ドミノ』
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角川文庫
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第10位 |
『ねじの回転ーFeburuary
moment』
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集英社文庫
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(天狼院書店のブログでは、恩田陸の全作品を愛してやまない三宅さんが
20位までの作品について一作ごとに熱い思いを込めて紹介しています。)
【祝!直木賞!!!】恩田陸ファン歴十年の京大院生書店員が、
死ぬ気でおすすめしたい恩田陸作品ランキング20選!!! |
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http://tenro-in.com/articles/team/32148
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面白い作品に出会ったり、好きな作家が増えるほど
あれもこれもと読みたい本が出てきて、困ってしまいます。
読んだ分だけ“センス”や“選択眼”が磨かれているとよいのですが…。
自分の好きそうな作品世界にひたる愉しみとは別に、
むしろ知らない世界に憧れてしまう面もあったりするので、
その辺はもう直感で、エイっと冒険するしかありません。 |
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