何十年ものあいだ、繰り返し散ってきた花びらを幻視しながら
「さくら散る」と題された草野心平の詩をどうぞ。
はながちる。
はながちる。
ちるちるおちるまひおちるおちるまひおちる。
光と影がいりまじり。
雪よりも。
死よりもしづかにまひおちる。
まひおちるおちるまひおちる。
光と夢といりまじり。
ガスライト色のちらちら影が。
生れては消え。
はながちる。
はながちる。
東洋の時間のなかで。
夢をおこし。
夢をちらし。
はながちる。
はながちる。
はながちるちる。
ちるちるおちるまひおちるおちるまひおちる。
(草野心平「さくら散る」)
横書きではうまく伝わりませんが、縦書きの詩で
「ちるちるおちるまひおちるおちるまひおちる。」と読むと、
ひらがなの花びらが一文字ずつ、ひらひら舞い落ちる姿が浮かびます。
ところで。
日本の代表的な桜の品種として親しまれている「ソメイヨシノ」は、
手入れをしないでいると、60年ほどの寿命しかないという説があります。
国内には樹齢140年以上のソメイヨシノもあるそうですが、
もし “60年寿命説”が真実だとすれば、高度成長期に数多く植えられた
日本の桜の樹も、深刻な高齢化問題を抱えていることになります。
京都の有名な植木職人、佐野藤右衛門さんは、
「ソメイヨシノ」の流行についてこう述べています。
「ソメイヨシノが主流になってしもうて、桜も本来のよさがなくなりました。どこへ行ってもソメイヨシノばかりなんですわ。どこへ行っても景色が一緒なんです。おもしろ味も深味も何もないですわ。…(中略)…ソメイヨシノは接ぎ木がしやすい、生長が早い、それで、どこで植えても同時に咲くんです。個性がない。人間につくられたものやから個性がないんです。」
(佐野藤右衛門「桜のいのち庭のこころ」)
個性がないのも当然で、全国各地のソメイヨシノは、
最初の1本から接ぎ木で増やされたクローンであり
同じ遺伝子をもつ栽培品種であることが判明しています。
ぐるっと回って、中学校の北側の土手の桜を見に行きましょう。
数年前、幹が傷んだ何本かの古い桜が切り倒されました。
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