【追悼。吉田修先生】
修先生の「天文年鑑」。

中1の冬の夜、オリオン座の真上に明るく輝く星を見つけた。
見渡したところ、全天のどの星よりも明るい。
といっても、自分にわかるのはオリオン座くらい。

ふだんは星のことなんて気にも留めないのに、
そのいちばん明るい星のことが気になって、
帰宅後、本棚に飾ってあった百科事典を開いてみた。

夜空をあらわす青い半円のなかに、点々と描かれた冬の星。
一等星は黄色い☆印だった。オリオン座はすぐ見つかった。
でも、その真上に輝いていたはずの星が見当たらない。

あれ?
オリオン座の一等星よりも明るかったのに。
ひょっとして、事典にはまだ載っていない超新星とか? 

翌日の夜も、そいつは確かにオリオンの頭上に輝いていた。
隕石の衝突とか、地球滅亡とか、当時流行していた
「ノストラダムスの大予言」といった言葉が頭に浮かび、
なんだかドキドキしはじめた。
でも、テレビでそんなニュースはやってない。
誰も気がついていないとか? まさか!


親に聞いてもわかるはずないし、それどころか、
星に興味をもつなんて笑われるに決まってる。
数日間、モヤモヤと思い悩んだあげく、
理科の吉田修先生に聞いてみようと思い至った。
ちょっとコワイけど。

中学生になって最初にゲンコツをもらったのが修先生だった。
集会で放送の準備を手伝うよう言われていたのに
うっかり忘れて自分のクラスの列に並んでいたら、
「お前、なんで来んか!」とガツン。
その瞬間、目から星。そして涙目。

学校の先生に質問をするには、勇気がいる。
クラスメートの視線も気になるし、
授業の内容とはまったく関係のない質問を
どうやって切り出したらいいものか?

「そんなこと聞いてどうする?」
そう言われたら、何と答えたらいいかわからない。
自分でも、なぜそんなことが知りたいのか、
よくわからないのだから。 笑

理科の授業が終わるまで、あと15分。
やっぱり質問はやめておこうか、どうしようか…。
ひとり勝手に悩み、授業などまったく耳に入らない。

授業終了後、意を決して教卓へと向かった。
緊張のあまり、しどろもどろだった私の話を
吉田先生は「ふん、ふん」と聞いた後、
「ちょっと職員室まで来い」と言った。

(職員室に呼ばれて何を言われるんだろう…)
軽く足を引いて歩く修先生の後ろについて、
ゆっくり階段を下りていく時間の長かったこと。

職員室の席につくと、先生は棚から一冊の本を取り出して
しばしページをめくった後「木星やな」と教えてくれた。

あの星は、恒星ではなく惑星だったから
百科事典の星図には載っていなかったのだ。
まるで古代人のように自分も惑わされた。

「ほれ、これ持ってけ」
先生は、その薄い本を私に差し出した。
表紙に『1977天文年鑑』と書かれてあった。
教室への階段を、一段抜かしで上がりながら
思い切って質問してよかった、と思った。

今でも、冬の夜空に輝く星を見上げるたび、
あの時『天文年鑑』といっしょに

何か大切なものを受け取ったのだと、修先生のことを思い出す。
きっとこれからもそうだと思う。