盆栽は
完成のない芸術です。
一度はじめたら、
やめられません。(笑)

村田満男さん
【プロフィール】 1929(昭和4)年生まれ。盆栽歴は45年以上。
ローカルTV番組の「まちかど調査隊」(H16)、「きちゃりー東」(H22)などで
盆栽名人として紹介される。枝光北市民センターの園芸ボランティア
「すみれ会」の代表としても活躍中。 (聞き取り: 2012年10月16日)

追記:村田満男さんは、2015年9月9日に逝去されました。
謹んで哀悼の意を表します。

■盆栽をはじめたきっかけは
 昭和40年代の“サツキ盆栽
”ブーム。


私は遠賀の生まれで、父が盆栽をやっとりました。
数は多かったけど、まあ今考えれば“田舎盆栽”やね。(笑)
それで、子どもの頃から親父に言われて、
嫌々ながら盆栽の水やりをさせられよったです。

31歳で遠賀から枝光に越してきました。
そのとき親父から「この鉢、持っていけ」と言われたけど
私は「こんなの、いらん」と断ったほどです。

サツキ
自分で盆栽をやりはじめたきっかけは、
昭和40年代のサツキ盆栽のブームです。
満開の花を見てキレイやなぁと感心して、
それから。


会社の同僚10人くらいでサツキ盆栽の会を
作って、みんなで苗を注文して取り寄せたり、
社内でサツキの展示会なんかをやりよったものです。

当時はちょうど、マイカーが普及し始めた頃でした。
私は最初、車を持っていなかったので、車を持っている同僚と
「ちょっと盆栽見にいこうや」と言って出かけたりしてました。
車の販売店や小倉城でサツキを展示したこともあります。

■園芸店の人から“松柏”をすすめられ、
  鉢をもらって帰ったが…。


小倉の日明にあった園芸店に出入りするようになって、
あるとき店の人から、「村田さん、あんたサツキだけやなくて
松柏(しょうはく)
もせんですか?」と勧められました。

【松柏(しょうはく)】
クロマツ、ゴヨウマツ、真柏(シンパク)などの常緑樹の盆栽の総称。
風格ある樹形や幹肌の荒れ、古色を楽しむ盆栽の王道。

最初は、「いやー、せんばい」と断りよったけど、
店の人が鉢をくれるんよ。「これ持って帰ってええよ」と。
タダでくれるなら もらっとこうかと、持って帰ったら、
半年もせんうちに枯れてしもうた。(笑)

店の人に「あの鉢、枯れたばい」って言ったら、
「おかしいなぁ。水遣りはどうしよったな?」と、
話をしよるうちに「これはいい加減に聞いとったらダメや。
完璧にせな」とそう思い直して、
松柏類も手がけるようになりました。

盆栽の定番というと、やはり松柏ということになりますが、
花もの、実もの、葉ものと、それぞれに楽しみがあります。
樹形もいろいろですね。一つひとつの木をよく見て、
この木はどうしたらもっとよく見えるかなとか、
一鉢ごとに違っているので、いくつ作っても飽きません。

ぜんぶで何鉢あるか、数えたことがないです。
置き場がないので、増えた鉢はどんどん人にやってます。
でもまあ、私も最初はそうでしたが、
人にあげても、たいてい枯らしとるですよ。(笑)

覚悟を決めて 「取り木」した
  父から受け継いだゴヨウマツ


昔は、盆栽の知識や技術を覚えるために、
本やら雑誌やら ものすごく買いよったです。
どんどんたまってしまうので、だいぶ捨てましたけど。
親父からもらった樹齢100年以上のゴヨウマツを
「取り木」するときは、ちょっと考えました。
取り木のやり方はいろいろあるようですが、
どうやれば確実に成功するかはわからんし、
失敗したら枯れてしまいますから。
ゴヨウマツ

親父が生きとる間は、ちょっと枯れたらマズイなあと思って。
親父が亡くなったんで「もう失敗して枯れてもええや」と
開き直って取り木したら、2年後に根がつきました。

盆栽の面白いところは、イメージ通りに樹形を整えたり、
舎利(しゃり)や神(じん)※をこしらえたりすることです。

【舎利(しゃり)・神(じん)】
幹の一部が白く枯れた部分を「舎利」、枝の一部が白く枯れた部分を「神」という。
自然の古木を真似てつくる盆栽の技術がある。

年ごとにやり変えたり、何年もかけて形を作ったり、
盆栽は、これで完成というのがありません。
どんどんよくなるか、失敗して悪くなるか。面白いですよ。

画家をしていた義理の弟に、
「絵描きは、絵を描いたら終わりやからええなぁ。
盆栽はつくった後も、一生水をかけんといかんとぞ」
そんな話をして笑ったことがあります。
盆栽は生き物やから、やりはじめたらやめられません。(笑)


私の場合、盆栽は健康にもいいようです。
毎日20分ほどの水遣りが、いい運動になっていますし、
たいてい病気をしたら、その病気についていろいろ悩むでしょ。
夜、寝られんやったりするとかえってマイナスですよね。

でも、趣味があると気持ちの切り替えができます。
あの鉢の、あの枝をどうしようかとか、
好きなことを飽きもせず考えているのが、健康にもいいようです。
世話する人がおらんやったら木も困るやろうと思ったら、
死にもされません。(笑)