日本の教育に歴然たる暗雲が垂れ込めたのは、「いじめ問題」がクローズアップされた1980年代である。しかしそれは、“教育の問題”ではない。日本の社会が子供達に明確なる未来を教えられなくなっていたという、日本の退廃と重ねてしかるべきものである。…
“豊かな日本”では、なにも考えなくて生きて行けるはずだったのだ。その日本が傾いた時、“傾く現在”の上にいる大人達には、もう子供や若者達への“未来”が語れなくなっている。…
日本の社会を動かしている人間達は、自分達のなすべきことで手一杯になっていた。そこに“未来”への展望はない。いつの間にかゴールを欠いて、しかし少年達を乗せたベルトコンベアは動き続けていた。動いていればこそ、そのベルトコンベアは“破綻”を示さない。しかし、そのベルトコンベアの先には、なにもないのだ。それが、20世紀最年末の日本である。
(橋本治 『二十世紀』 毎日新聞社刊 2001年)
作家の橋本治が20世紀を1年ずつ振り返って、
101本のコラムに仕立てた著作の中から
「2000年」のページの一部を抜き書きしてみました。
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