【Interview】2007年9月19日
どんなに大きい花束を
もらうより、先生うれしいわ」と
その子に言ったことよ。
近藤 逸子 先生

昔と変わってきた、今どきの中学生

―――長年、多くの生徒達を見てきて、最近の子供たちの印象は?

あなたたちの頃は、"悪そう坊主"と呼ばれる子らとも、
私はわりあい付き合いやすかったのよ。
ところがね、普通の子なのに平気で嘘をつく子が
出てくるようになった。あと、リーダーがいなくなったね。

―――あー、なるほど。

あれは私、小学校教育のせいやないかなと思うんやけどね。
級長とかつくらんでしょ?なんか仕事を分担して。
それはいいんやけどね。

―――みんな平等、平等で。

だって、社会に出たらそんなわけにはいかんでしょ?
リーダーがいるやろ?やっぱり能力のある子はあるわけよ。

私は、勉強ができて余裕を持ってる子にはね、
「あんたができるのは、ある程度の能力を持って
生まれてきてるからだと思うよ。そういうものはね、
みんなにお返しせないけん義務があると思う。
だからね、リーダーになって働きなさい」と、
よく言ってたんだけどね(笑)。

―――そういう使命がある、と。

ところがね、今はそういう、やろうかなぁと思う子が
出て行けない状況があるね。
かつてはね、生徒の間でも一目置かれる子がおったんよ。
あんたたちの時代もまだおったわね。
ところがね、そういう子がいないことはないけど、
消えてきたね。

―――だんだん、減ってきましたか。


そうね。能力がね、あえて"ないくせに"という言葉を
使うけどね、ただの出たがり、目立ちたがりで、
リーダーというべき地位に出ていく子が出てきだした。
己を知らんのよね。己を知るというのは大事やろ?

内申書重視とかになってきてね、何かの役についとった方が
内申書に書いてもらえるとかね、そんな子も出てきた。

―――最近はよく、いじめも問題になっているようですが。

いじめも陰湿になってきたね。あるとき、保健の先生が
「先生、あのケガしとる子、どうもおかしい」というからね、
呼んで聞き出したら集団で暴力を受けよるのがわかったんよ。
そしたら、その集団の中に、私たちから見たら
その子と仲がいいと思うとった子も入っとるわけよ。

―――仲がいい友達同士と思っていたのに。

「何で?」とその子に聞いたらね、
「気の毒とは思ったけど、僕もやらんな僕がやられる」って。
そういうパターンが、けっこうあるんよ、今。

―――自分が狙われないように、自分もやると。

昔は、ワルのなかのボスが 「もういい加減でやめとけ」
というようなのがあったけど、今はそれがないね。
とことんやるよね。
そして、やられた方もなかなか親には言わない。

―――親に話せない子が多いって聞きますね。

あと、何か事があると親がすぐに訴えるとかね。
学校もね、校長が下手に出ずに「どうぞ」と
言ったらいいと思うんよ。私が辞める前にも、
新聞社に知らせるとかいう親がおったよ。

―――新聞社にですか?

そう。私も若い先生たちと家庭訪問をしてたからね。
「どうぞどうぞ。新聞社だって、そのままは書きませんよ、
調べて書きますよ」と親に言ったよ。

親が弁護士に相談したら、訴えたらいいと言ったって。
そら、自分に都合のいいことしか言ってないから、
弁護士もいいというわね。

―――はぁ。そんな親もいましたか。


子供でもね「先生、○○先生が俺を叩いた。体罰や。
教育委員会に言っていい?」とかそんな口を利くんよね。
でも、その子は本気で言うとるとは思わんからね、
私は「ああ、そうね」と言って、
その子のほっぺたをパーンと張ったんよ。
「はい、○○先生を訴える前に、近藤先生を訴えてきなさい」と。

―――パチパチパチ。(笑)


そしたら黙って帰った。ただ甘えにきとるんやもん。
もちろん、その日は残して「何があったんね」と
聞いてあげるよ。そんな子やらワルでも可愛いんよ。

その子が卒業する時にはね、
担任と私に花束を持ってきてくれてね。
スーパーのチラシに生姜350円とかついとる花束で(笑)。
「まぁ。どんなに大きい花束より、先生うれしいわ」と
言ったことよ。

―――あー、いい話ですね。


そんなこともあったけどね。
そういう子はむしろいいの。だけどね、
真面目にしとるような感じの子はもう、
最後まで嘘ついたりね。

―――普通に見える子が変わってきたんでしょうかね。

普通は、家にいるときは解放されて、
親にわがままを言えるけど、
学校では他人の中に入るわけだから、
ある種の緊張感をもって過ごすのが
昔は当り前やったやろ?

―――そうですね。

ところがね、今は逆に、家ではけっこういい子なのに、
学校へ来たら、ハメをはずすような子が出てきだしたよ。

―――子供というより、家庭環境というか、
親子関係が変わってきたのかも知れませんね。


私はね、やっぱり女の子の問題児の扱いが難しかった。
女の子は家出したりするとね、男がつくのよ。
もうね、一回そういう関係をもったりした子はね、
やりにくい。親にも開きなおるんよ。

家出して帰ってきたときでも、
絶対男の先生と二人とかにさせられんよ。
「さわったぁ」とか大声を出すんやけ。
そりぁ、若い男の先生やら、タジタジとなるわね。

―――うわぁ。

今はまぁどうか知らんけど、男の子は家出すると、
ぼろぼろになって帰ってくるやろ?
でも女の子はね、新しい服やら持って帰ってくるんよ。

―――ははは。強いっちゃ、強いですね。

「先生、心配せんでええ。小倉の街角に立っとったら、
誰かご飯食べさせてくれるけ」って。

―――わちゃぁー。たくましい(笑)。

そうよ。私やら絶対だめよ。
向こうも寄ってこまいけどさ(笑)。

◆親離れできる子供、できない子供

生徒をずっと見てきて思うのはね、
小さい頃から親にしっかり可愛がられた子の方が、
ちゃんと親離れするね。

―――あ、そうですか。

母親が男をつくって出ていったとかするじゃない。
中学生くらいになると
「どうせ若い男から捨てられるに決まってるのに」
なんて悪態をついたりしてるよ。
ところが、母親からちょっと来いとでも声をかけたら、
もう飛んでいくんよ。あれだけ悪態ついとったのに。

―――愛情に飢えているんですね。

だから、子供の言葉もそのまま額面通りに取ったら
とんでもないね。父親から邪慳にされとった子とかね、
そういう子の方が親離れをしきらんね。

不思議よね、親から虐待されたりなんかしたら、
さっさと出ていきゃあいいやない。それが逆ね。
十分食べてなかったらいつまでも食卓を
離れられんようなもので。

―――ああ、そうかも知れないですね。

食べ物とは違うけどね、
そういうのは精神にもあるような気がするね。
ずーっと子供たちを見てきてね、そんな感じがするよ。
親からさっさと離れて独り立ちできる子は、
「ああ、もう十分です」という子よ。

―――とくに、乳幼児期が大事だと聞きますが。

抱きかかえるときに、しっかり抱き抱えてやっとかなね。
だから、早よから子供は自立させなとかいって、
欧米式に赤ちゃんのときから
別部屋に寝かせる必要はないと思うけどね、
私はしっかり添い寝してやったほうがいいと思う。
中学校に入ってきた子供たちを見て、そんなことを思うよ。

(つづく)