◆体罰だと教育委員会に電話する親
北中におったとき、同じ学年やったY先生がね、
4時間目の体育の時間に男子生徒らがダラダラして
言うこと聞かんもんで「お前ら、運動場に座っとけ!」と、
昼休みも食事をとらせんで生徒を座らせたことがあってね。
――体罰ですね(笑)。昔の生徒はよくやられました。
職員室では「今、これこれで生徒を座らせとるから」と、
Y先生も昼メシを食べんで席に座っとるたい。
「そら、教育委員会からお叱りが来るばい」と言いよったら、
案の定、放課後になってすぐ電話があったよ。
座らされた生徒の一人が家に帰って親に言うて、
親が「そんな体罰、けしからん」と教育委員会に電話をして、
教育委員会から学校に電話がかかってきとるわけたい。
――早いですね、その日のうちにですか?
そう、その日よ。で、学年主任やった僕が電話に出たわけ。
電話してきた教育委員会の指導主事にね、
「確かに事実はその通りです。しかしあなた、親に何と言いましたか?」と、そう聞いたんよ。
「それはけしからんから "事実関係を調べて厳しく指導する"とか、そういう程度の話をしたんじゃないですか?」と。「あんたも本気で仕事する気があるなら、こっちまで来んですか?」と、言ってやったよ(笑)。
こういう電話一本で済ませて、事が終わると思うとるからね。
――電話一本でねぇ。Y先生や他の先生方の反応は?
そらもう一緒よ。あんな狭い職員室でワーワーいうて、
Yさんも含めての話やからね。同じ学年の先生みんなで相談して、
これは電話一本で済ませるような問題やないから、
保護者会を開こうということになった。
「事の経緯をご説明しますから、来てください」と
簡単な案内状を配ってね、体育館に集まってもらったんよ。
怒られたクラスの親を中心に、4〜50人は見えとったかね。
――保護者の前には、学年全員の先生が?
そう、先生みんな雁首ならべてね(笑)。
まずY先生に事の経緯を説明してもらって。
で、僕が言うたのが「親御さんにしても、教育委員会に
電話一本して、学校の先生を叱りおいてもらうようなことで
済む問題じゃないでしょう?」と。
「なぜ直接学校にね、抗議に来るなり、説明を求めるなり、
話をしに来んのですか?」と。
――まずは、当事者同士でね。
それがほんとよね。そして
「僕たちは、教育委員会に言われたからといって、
なんでも"悪うございました"と頭下げるような、
そげなフヌケな教員やないですよ」と、
こう啖呵をきったわけたい(笑)。
――きりましたねぇ。
何ごとも事情があるんやから。ちゃんと理由を確かめてね、
その子供の行為とこっちの指導が適当であったか、
そうでなかったかを総合的に判断してね、
こちらが悪けりゃ反省し、頭を下げましょうしね。
だから、親にも「皆さんどうぞ意見を言ってください」と言うてね。
――先生が謝罪すれば終わり、ということではなくてですね。
で、親にいろいろ意見を聞きよったら、
「いや、私どもはそれくらいしてもらった方がいい」と
いうような意見も出るわけたい。
時には厳しくすることも必要だという場合もあるわけやから。
で、話をしよるうちに、座らされたクラスの親たちが中心やから、
そういえばあの人が来てない、電話をしたのは誰かというのが、
何となくわかってきたわけたい(笑)。
――誰が電話したかは、それまでわかってなかったんですね。
そりゃわかってないよ。で、その親は来てないわけ。
――あー、匿名の電話をしただけで。
北中では、たとえば1人の生徒が問題を起こしても、
学年の先生全員で議論しよったわけ。担任だけやなくてね。
それは、どの先生も授業に行くでしょ。その生徒に対する
指導についての知識は統一しとかないけんわけよ。
――情報を共有すると。
そう。問題を起こした子供は心を痛めとるんやからね、
先生が無神経な対応をしたら、せっかく反省しとるのが、
「俺を差別の目でみよるんやないか」と思ったらダメでしょ?
生徒本人や親と直接対応するのは担任やけどね、
学年の先生みんなで議論して対応を決めて、
「こういう対応をします」と事前に校長に報告しとったよ。
――いまは、そういう先生同士の団結が少ないと聞きます。
そげなことしよったら、それこそ校長から怒り上げられるよ(笑)。
今はもう全然ね、先生にそんな気力がないたい。
――がんばってほしいですけどね。
むしろ先生方を支える必要があるんでしょうね。
(つづく)
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